M Christodoulou and C Rovelli
"How big is a black hole?"
arXiv:1411.2854 [gr-qc] (v2)
(種別:プレプリント)
【概要】
球対称ブラックホール内の3次元体積は,平坦時空での2次元球面内の体積の特徴付けを拡張することで定義できる.崩壊する物質に関して,体積は崩壊からの時間と共に増加し,簡単な漸近形をもち,説得力のある解釈を許す.驚くべきことにその体積は大きい.この結果は情報喪失問題と関係があるかも知れない.
【内容】
相対論では「ある2次元閉曲面で囲まれた3次元領域の体積」という量は一意的でない.時間を考慮した4次元時空で考えた場合,3次元空間の境界を決めても,どのような時刻一定面の上(タイムスライス)で体積を計算するかによって結果が異なるからである.
我々は半径$r$の球面内の体積が$V=\frac{4\pi}{3}r^3$であると思っているが,実は時間も考慮した場合,この体積$V$は半径$r$の球面内の体積の《最大値》であることが簡単な議論で理解できる.
この論文では,重力崩壊によって球対称ブラックホールが形成されたとき,そのブラックホールの内部体積を定義し,それを計算することに成功している.上で述べた「平坦な時空における球の体積$V$は与えられた球面の内部体積の最大値(極大値)である」ということを曲がった時空へ一般化することで,事象の地平線上の2次元球面を固定したとき,その内部にある3次元体積を一意的に決定している.
内部体積を定義する時刻一定面を探す問題は,有効的(effective)な2次元空間における測地線を求める問題に帰着される.
結論としては,重力崩壊が始まってから経過した先進時間を$v$とすると,質量$m$のブラックホールの内部体積は$v \gg m$($c=G=1$という幾何学単位系)という極限で,$V \simeq 3\sqrt{3} \pi m^2 v$という体積をもっているということである.
重力崩壊でブラックホールが形成される様子を示すPenroseダイアグラム.一点が球面を表す.先進時刻$v=0$に光速で中心に物質殻が落ちていき,中心($r=0$)に到達したと同時に特異点が形成されブラックホールができる.ブラックホールの地平線上に2次元球面$S_v$をとったとき,その内部の体積を極大化する空間的超曲面を$\Sigma_v$としている.
もしこれを銀河系中心にある超巨大ブラックホール(半径$r \sim 10^{6} \; {\rm km}$,年齢$v \sim 10^{9}$年)に適用すると,ブラックホールの内部体積は$V \sim 10^{34} \; {\rm km^3}$となり,これは太陽系100万個分の体積に相当するということである.
詳しい解析をすると,ブラックホールの内部体積の殆どは,時間と共に緩やかに半径が変化する3次元シリンダーからの寄与であることがわかる.
$\Sigma_v$は時間と共に半径が緩やかに増大するシリンダーとして捉えることができる(ホライズンの中なので$r=$一定面が空間的になっていることに注意).その殆どの領域は半径が一定($3m/2$)である.
【疑問】
- 一般次元ではどうなるか?Bernstin conjectureとの関係は?
- 体積の第一変分を考えているが,本当に体積の極値を求めているか.つまり,第二変分を考えなくても平気か.
- 回転しているブラックホールでも同様の議論をBengtsson-Jakobsson (2015)がしているが,読んでいないので正しいか解らない.
- 有限体積の空間で重力崩壊が起こったときも,ブラックホールの内部体積は発散するのだろうか.
- 体積を解析的に計算できる簡単な例はないか.
【誤植】
- FIG.1,Penrose diagramの$v=0$という線が間違っている.
- p1,Minkowsky $\Longrightarrow$ Minkowski.
- p2,$A=\pi R^2 \Longrightarrow A=4\pi R^2$.
- 式(5),多分$ \gamma \mapsto (v(\lambda),r(\lambda)) \Longrightarrow \gamma: \lambda \mapsto (v(\lambda),r(\lambda))$
- 式(12),$ \sqrt{ \tilde{g}_{\alpha\beta} dx^\alpha dx^\beta} \Longrightarrow \sqrt{ \tilde{g}_{\alpha\beta} \dot{x}^\alpha \dot{x}^\beta}$
- 式(19),$\displaystyle \int_0^{2M} \Longrightarrow \int_0^{2m}$(論文を通して$M \Longrightarrow m$).
- 式(27),$V \simeq -4\pi r_V^4 f(r_V) v \Longrightarrow V \simeq 4\pi \sqrt{ -r_V^4 f(r_V) } v$.
【英語】
- compelling:説得力のある.
- simultaneity:同時性.
- so to say:いわば.
- auxiliary:(オーグジリアリ)補助の,補助的な,予備の,付属の.
- significative:意味のある(~significant).
- legitimate:合法性,正当性.
- built up:高まる,増大する,~を高める,~を増大させる.
- cast some doubts on:~に疑いの目を向ける.
- most likely:【副】多分,十中八九,たいがい.(形容詞的用法もある).
- pertinent:関連のある(~relevant),適当な,的を射た.
- out of question:問題ない.
- degrade:(地位・価値が)下がる,低下する,~を下げる.
- as such:そういうわけで.
- depiction:描写,表現,叙述.
【蛇足】
- C Rovelliはイタリア人で量子重力理論研究者である.いろいろな所属をもっているようだが,現在はフランスのマルセイユを拠点にしているようだ.
- M Christodoulouは多分Rovelliの学生だと思われる.Christodoulouと言えば,Minkowski時空の安定性を数学的に証明したDemetrios Christodoulouを思い浮かべてしまうが,彼ではない.

