以前、
電磁気学の勉強がたいへんな理由という記事を書いた。(そして、当ポンコツ・ブログにしてはそこそこのアクセス数を記録している。)
その記事では、電磁気学の講義は静電気学などの各論から入って、コースの最後の方に運動方程式であるマクスウェル方程式が出てくるという、力学の授業と比較したら考えられないような奇怪なことが起こると書いた。
しかし、実際にマクスウェル方程式から始める教授法を編み出し、その伝道をライフワークにしている(ように見えるくらい熱心な)人が居るということを最近知った。しかも、理工系の学生だけでなく、薬学生や医学生に対する教養物理の授業でもそれを実践するという強者である。
それを知ったのは、『このままで良いのか大学の電磁気学教育』という記事が6月の「日本物*学会誌」に載っていたからである。同様の記事が「大学の物*教育」にも
掲載されており、そそちらも参考になった。
著者の主張は、電磁気学の授業はマクスウェル方程式から始めるべきであり、そうしても何も問題ない、ということである。普通に考えれば、数学(ベクトル解析)がネックになるが、結局どこかでやるのだから始めの3回程度で集中的にやっても、15回の授業に分散させても同じじゃん、というロジックである。
記事を読むと、大学教員(ちなみに東大)になって初めての講義が電磁気学で、マクスウェル方程式から始める講義を実践し、最後の授業で学生から拍手喝采を浴びたというエピソードが載っており、その完成度の高さを物語っている。
小生の経験からも、学力の高い学生に対する授業が上手くいったときは、本当にこちらが感動するくらい賞賛して貰える場合がある。(そして、この「ビギナーズ・ラック」がその後の自分を苦しめる。)
どの程度のレベルの大学で、どのような工夫をすれば、マクスウェル方程式から始められるかは興味深い、として記事を終えているので、東大以外で試された例はないように見て取れるが、著者は自身の哲学に基づいた
教科書も執筆しているようなので、小生も電磁気学を教えるチャンスがあったら試してみたいと思っている。
ちなみに、僕の業界にポアッソンというカリスマがいて、その人はいろんな物理科目(熱力学、統計力学、古典力学、電磁気学、一般相対論など)の講義ノートを
HPで公開している(どれも教科書として出版できる完成度)が、彼の電磁気学の講義ノートを見ると、やはりマクスウェル方程式から出発している。彼のいるゲルフ大学というところもカナダの名門大学ではあるのだが。
運動方程式はどんな現象からも導かれないのであるから、スタート地点に据えるのを躊躇うのはナンセンスだ、と言い切れる時代が来るのかも知れない。来ねーか。