2015年1月27日火曜日

【独り論文速報】 "Singular Inflation"

【文献】
JD Barrow and AAH Graham
"Singular Inflation"
arXiv:1501.04090 [gr-qc] (v1)
(種別:プレプリント)


【概要】
我々は,$V(φ)=Aφ^n (0<n<1, A>0)$とうい冪型ポテンシャルをもつスカラー場が存在する一様等方宇宙は有限の時間内にハッブルやその1階微分は有限であるが2階微分が発散するような特異点に発展してしまうことを証明する.これらは現実的な物質源をもちながら突然型(sudden type)の弱い特異点を保有する初めての例である.$n$が1より大きい非整数とするなら,更に弱い特異点をもつような広いクラスのモデルが存在することも我々は示す.もっと正確に言えば,$k<n<k+1$($k$は正の整数)ならば,ハッブルの初めての発散が$(k+2)$階微分で起こる.これらのモデルは初期では通常のlarge-fieldインフレーションのように振る舞うが,インフレーションが終わるとき特異な終状態を迎える.我々はこれを特異インフレーション(singular inflation)と名付ける.

【内容】
$V(φ) \sim φ^n$ ($0<n<1$)という冪型ポテンシャルをもつスカラー場で平坦($k=0$)FLRW宇宙を考察している.結論としては,このスカラー場をインフラトンだと思うと,インフレーションを起こした後,有限の時間で$φ$がゼロとなり($φ<0$の領域は$V'$がimaginaryになるから非物理的である),曲率の時間1階微分(ハッブル$H$の時間2階微分)が発散するような弱い特異点になってしまうということである.(このような有限の時間で特異点を迎えるインフレーションを"Singular Inflation"と名付けて流行らせたいのだろう.)さらに,$n$を1より大きい非整数の実数へ拡張すれば,曲率の高階微分が発散するようなモデルをいくらでも作れるという.彼らは,このような現象はポテンシャルが$φ=0$で滑らかでないモデルの多くで一般的に起こるであろうと予想している.


スカラー場のポテンシャル$V(φ)$の例と初期位置$φ_0$から正の向きに出発したときのスカラー場(黒玉で表現)の挙動.

初期位置$φ_0$から正の向きに出発したときのスカラー場$φ(t)$の挙動を横軸を時間として表したもの.論文において,有限の時間にピーク($\dot{φ} =0$)を迎え,その後,有限の時間内に$φ=0$になること等が解析的に証明されている.

有限の時間で特異点になってしまうようなインフレーションモデルなど駄目なモデルではないか,と言うとそうでもない.何故なら,曲率は有限で曲率の微分が発散する弱い特異点だからである.しかも,このようなモデルでは,ヌル・エネルギー条件($\rho + p \geq 0 $),弱いエネルギー条件($ρ\geq 0, ρ+p \geq 0$),ドミナント・エネルギー条件($ρ\geq 0, ρ \geq |p|$)が満たされているので,そこそこ真面な物質と考えられるからである.


【疑問】

  • reheating(宇宙の再加熱)との関係が謎.著者はreheatingの効果を考慮しても$φ=0$の特異点に突っ込むだろうと言っているけど,その論拠が少し不明瞭.
  • 著者は,singularityへ突っ込むような解はFRWの中では安定と言っている.どうやら前の論文でより一般的な状況で証明を与えているようだが読んでいないのでわからない.
  • $k=+1$ (閉じた宇宙), $-1$ (開いた宇宙)の時はどうなるのか.$k=-1$のときは,$φ=0$になることが同様に証明できると書いてある.

【誤植】
  • p3: worth nothing => worth noting
  • p4: be destablished => be established

【英語】

  • even:(比較級を強めて)さらに,なおさら
  • crunch:噛み砕くこと,噛み砕く音(バリバリ,ボリボリ)
  • compliance:順守(遵守),適合性,準拠
  • subsequently:その後に,続いて,それ以降
  • stark:飾り気のない,激しい,ありのままの
  • bar:【前】~を除いて(主に英国)
  • monomial:単項の,単項式の(<=>polynomial:多項式の)
  • render:~の状態にする,~を与える(文)
  • intricate:【形】入り組んだ
  • pressing:急を要する,喫緊の,熱心な,しつこい
  • perpetually:永遠に,絶え間なく

【蛇足】
Barrow氏は多くの啓蒙書などを執筆していて,相対論・宇宙論のみならず科学全般に関して膨大な知識を持っているよう.Graham氏はDAMTP(Department of Applied Mathematics and Theoretical Physics, University of Cambridge)の大学院生のよう.